建設業を営むためには、原則として、都道府県知事又は国土交通大臣から建設業の許可を取得しなければなりません。ただ、軽微な建設工事のみを請け負うケースでは、建設業許可が不要とされています。
軽微な建設工事の基準としては、建築一式工事では請負金額が1,500万円未満、その他の工事では500万円という基準が設定されています。
中小規模の建設会社の場合、工事一件当たりの請負金額はこの範囲に収まることが多いので、建設業許可を取得しなくてよいと考える方も少なくありません。
しかし、建設業許可が不要となる軽微な建設工事の判断基準についてはいくつか注意点があるので解説します。
建設業とは?
建設業法第2条の規定から、建設業の定義は次のように読み取ることができます。
「土木建築の一式工事又は27の専門工事でこれらの建設工事の完成を請け負う営業」の事である。
そして、建設業を営む場合は、建設業法第3条に基づいて、建設業の許可を受けることが原則とされています。
建設業の許可が必要な理由は?
建設業の許可が必要とされているのは、建設工事の適正な施工を確保し、発注者を保護するためです。
住宅や建物、土地工作物はいったん建てたら、何十年にもわたり使用するものです。
災害が頻発する昨今では建物の安全性は極めて重要です。
そのため、その建設工事に関わる業者については、経営能力、技術、資金力などについて、行政による確認や監督を受けさせることによって、発注者を保護しています。
軽微な建設工事なら建設業の許可は必要ない?
建設業法第3条1項但書には、「ただし、政令で定める軽微な建設工事のみを請け負うことを営業とする者は、この限りでない。」と定められており、軽微な建設工事については、建設業の許可を不要としています。
すべての工事に許可を義務付けるのは、小規模な事業者の活動を不当に制約するものとなることから、例外として、社会的な影響が比較的小さい工事を「軽微な工事」と定義し、これに該当する場合は無許可での施工を認めているわけです。
軽微な建設工事とは?
建設業許可が不要となる「軽微な工事」は、建設業法施行令第1条の2において、その請負代金の額に応じて、2種類に分けて定められています。
建築一式工事の場合の基準額
「建築一式工事」とは、総合的な企画、指導、調整のもとに建築物を建設する工事を指します。ハウスメーカーやゼネコンが行う、建物全体を請け負う工事が該当します。
建築一式工事については、金額要件と面積要件の2種類による線引きが設定されています。
| 工事の種類 | 許可が不要となる基準(請負代金の額) |
| 建築一式工事 | 1,500万円未満(税込)または、延べ床面積が150平方メートル未満の木造住宅工事 |
金額要件:請負代金の額が1,500万円に満たない場合です。
面積要件:金額にかかわらず、延べ床面積が150平方メートル未満の木造住宅工事であれば、許可は不要です。これは、特に小規模な個人住宅建築業者の保護を目的としています。
建築一式工事以外の専門工事の場合の基準額
土木一式工事と、内装仕上工事、電気工事、管工事、とび・土工工事など、27種類の専門工事については、以下の単一の基準が適用されます。
| 工事の種類 | 許可が不要となる基準(請負代金の額) |
| 建築一式工事以外の工事 | 500万円未満(税込) |
専門工事は、請負代金の額が500万円に満たない場合に「軽微な工事」となります。
土木一式工事も、請負代金の額が500万円に満たない場合のみ「軽微な工事」に該当します。
軽微な建設工事の金額の解釈請負代金は「税込み・税抜き」どちらで判断すべきか?
軽微な建設工事の金額要件として、建築一式工事では「1,500万円未満」、建築一式工事以外の工事では、「500万円未満」と設定されています。
では、この金額に消費税は含まれるのでしょうか?
結論から言うと、建設業法施行令第1条の2の解釈基準(建設省通知)により、「請負代金の額」は、原則として消費税及び地方消費税を含めた額(いわゆる税込み額)で判断されます。
| 判断基準 | 税込み額 |
| 建築一式工事 | 1,500万円(税込み)未満 |
| 専門工事 | 500万円(税込み)未満 |
例えば、専門工事の請負代金が税抜きで480万円であっても、消費税10%を加えて528万円(税込)となるため、軽微な工事には該当せず、建設業許可が必要となります。
「軽微な工事」を請け負う際の脱法行為リスク:分割発注と判断基準(令第1条の2第2項)
本当は建設業許可が必要なのに軽微な建設工事に該当するものとして、脱法行為を行ってしまうケースに注意しましょう。
例えば、請負代金が800万円の専門工事を、400万円の契約を2つに分けるなど、同一の建設工事を工期や契約を分割して請け負うケースです。
こうした分割発注は、脱法行為とみなされる可能性があります。
建設業法施行令第1条の2第2項にも、次のように規定されています。
「請負代金の額は、同一の建設業を営む者が工事の完成を二以上の契約に分割して請け負うときは、各契約の請負代金の額の合計額とする。ただし、正当な理由に基いて契約を分割したときは、この限りでない。」
そして、建設業許可事務ガイドラインでも、「「軽微な建設工事」に該当するか否かを判断するに当たっては、同一の建設業を営む者が工事の完成を二以上の契約に分割して請け負うときは、正当な理由に基づいて契約を分割したときを除き、各契約の請負代金の額の合計額により判断」すると明記されていることから、分割発注は、原則として、脱法行為とみなされるものと考えるべきでしょう。
例えば、次のような形の分割発注で合計額が500万円を超えているケースだと、軽微な建設工事に該当しないものと判断されてしまいます。
- 1つの建設工事現場の仕事について、独立した工事の種類ごとに請負契約を締結しているケース。
- 1つの建設工事現場の仕事について、断続的な小口契約を請け負っており、その合計額が500万円を超えているケース。
- 元請工期が長期間で設定されており、その期間内に下請負人が500万円未満の工事を複数回にわたって請け負っているケース。
請負金額の計算:注文者(施主)が材料を提供(支給)する場合の算入ルール
建設工事現場によっては、建材を注文者が用意して、建設業者は建設工事のみを行うこともあります。
例えば、システムキッチンの取付工事、ユニットバスの取付工事などで、注文者が好みのものを直接メーカーから取り寄せているケースです。
このような場合、建設業者は工事代金のみ、注文者からいただく形になるため、その金額が500万円未満なら問題ないと考えるかもしれません。
しかし、建設業法施行令第1条の2第3項には、次のように規定されています。
「注文者が材料を提供する場合においては、その市場価格又は市場価格及び運送賃を当該請負契約の請負代金の額に加えたものを請負代金の額とする。」
よって、注文者がシステムキッチンやユニットバスをメーカーから自分で取り寄せていて、それを取付する工事だけを施工するケースでも、システムキッチンやユニットバスの価格や運送賃を加えた額が500万円未満とならない場合は軽微な建設工事に該当しないものと判断することになります。
まとめ
建設業許可が必要ない「軽微な建設工事」とは、
- 建築一式工事の場合は、請負金額が1,500万円未満(税込)または、延べ床面積が150平方メートル未満の木造住宅工事です。
- 建築一式工事以外の工事の場合は、請負金額が500万円未満(税込)となる結節工事です。
請負金額の判断に当たっては、
- 消費税及び地方消費税を含めた額(いわゆる税込み額)で判断すること。
- 分割発注は原則として脱法とみなされる可能性が高いこと。
- 注文者が材料を提供する場合においては、その市場価格又は市場価格及び運送賃を含めて判断すること。
この3つに注意してください。
建設業許可が必要かどうか、判断に迷った場合は、建設業に詳しい行政書士に相談してください。