
法学部の授業では条文の意味を理解するだけでなく、判例も勉強します。
では、判例とは何でしょう?
判例付き六法はどう使ったら良いのでしょうか?
判例集は買わなければならないのでしょうか?
法学部で勉強を始めた際に多くの方が抱く疑問について解説します。
判例とは何か?
判例は、裁判所が出した判決の事例のことです。
法学部で判例の勉強をする際は、
- どのような事件だったのか?
- 争点は何なのか?
- 関係する条文はどれか?
- 裁判所はどのような判決を出したのか?
- その判決が後の事件にどのような影響をもたらしたか?
といった点を学びます。
裁判所は全国各地にありますし、簡易裁判所、家庭裁判所、地方裁判所、高等裁判所、最高裁判所と種類もたくさんあります。
実務家の場合は、地方裁判所の何々部がどんな判決を出すのかという具合にマニアックな事例まで知っている必要があります。例えば、交通事故専門の弁護士なら、東京地方裁判所民事第27部(交通部)の裁判例に詳しくなければなりません。
裁判例を知っているからこそ、クライアントに裁判で勝てるかどうかや慰謝料の相場などを具体的に示せるのです。
ただ、法学部の学生にとって重要な判例は、主に最高裁判所の判例です。
最高裁判所の判決はその事件に対する最終的な結論の意味がありますし、その他の裁判所も最高裁判決の後で判決を出す際は、最高裁判決と齟齬が生じないようにしなければなりません。
裁判所法4条には、「上級審の裁判所の裁判における判断は、その事件について下級審の裁判所を拘束する。」と定められています。
また、後続の事件で地方裁判所などが判決を出す際も、原則として最高裁判決と矛盾しない内容にしなければならないと解されています。
このことを最高裁の判例には「先例拘束力がある」と表現します。
つまり、最高裁が出した判例は、新しく法律を作ったのと同じような意味があるということです。そのため、法律とセットで知っておく必要があります。
最高裁判所の判例は条文の意味を明確にする役割がある
最高裁判所の判例は、条文の曖昧な文言を明確にするという意味があります。
例えば、民法770条1項では、裁判所が夫婦に離婚を命じる判決を出せるケース(法定離婚原因)の一つとして次の項目を挙げています。
「配偶者に不貞な行為があったとき。」
では、「不貞な行為」とはどんな行為でしょう?
国語辞典では、「不貞とは夫婦間の貞操を守らないこと」といった説明がなされています。
多くの人は浮気や不倫のことだろうとイメージすると思いますが、浮気や不倫にもいろいろなパターンがあり、どこまでならセーフなのか線引きが曖昧です。
例えば、
- 夫が妻以外の女性と仲良く手を繋いで、映画を観に行ったり、食事をしていた。
- 夫が妻以外の女性とイルミネーションの下で抱き合って恋人同士のようにキスをしていた。
- 夫が妻以外の女性と一緒にラブホテルに入ってやることをやった。
これらのケースはどれが不貞行為になるのでしょうか?
手を繋いだだけでも不貞行為だと考える方もいらっしゃるでしょうし、キスしても許すという寛容な方もいるかも知れません。
しかし、裁判所が判決を出す際は、明確な線引きが必要です。
さもないと、手を繋いだだけで離婚を命じる判決が出されたり、キスしたのに離婚が認められなかったというように、離婚事件ごとにまちまちな判決が出てしまうからです。
そこで最高裁判所は、どこまでならセーフでどこからがアウトなのか、明確なラインを示しました。
昭和48年の最高裁判決です。当時の離婚問題と今の離婚問題とでは、その内容も大きく異なりますが、不貞な行為とは何かという点については、変わっていません。
最高裁は、不貞な行為とは、「配偶者ある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいう」と明言しました(最判昭和48年11月15日 民集 第27巻10号1323頁)。
つまり、上記のケースで言えば、ラブホテルに入ってやることをやった場合は、不貞行為になりますが、仲良く手を繋いて映画を観に行ったり、イルミネーションの下でキスしていたとしても、それだけでは離婚を命じられるほどの不貞行為とは言えないということです。
条文の文章は、「不貞な行為」のように、いざ事例に当てはめようとしても判断に迷うことが少なくありません。
このような場合、判例を知っていれば、「あの判例ではこうだったから、この事例もこう考えればいいのかな」というように察しがつくようになります。
知っている判例が多ければ多いほど、的確な判断ができるようになります。
司法試験などの国家試験でも事例問題が出されますが、判例を知らないと解けないことも多いものです。
判例付き六法はたくさんの判例や最新の判例を知るのに役立つ
判例は、基本書にも基本的なものは掲載されています。
ただ、ページ数に制約があるので、多くの判例を載せることはできません。
様々な判例を知りたい場合に役立つのが、判例付き六法です。
例えば、判例付き六法で民法770条を開くと、条文の他、上記で解説した「不貞な行為とは何か?」についての最高裁判決の概要が書かれていますし、その他にも様々な判例が掲載されています。
また、最高裁も判決を出し続けていますから、年々新しい判例が蓄積されます。その中でも重要な判例の概要が毎年の最新年度版の判例付き六法に反映されています。
つまり、判例付き六法は、基本書には掲載しきれない様々な判例を知りたいとき、最新年度版であれば新しい判例を知りたいときに役立つということです。
判例は知っていて損はないので、司法試験などの国家試験の合格を狙うなら、早めに判例付き六法に目を通しておいたほうが良いでしょう。
判例集は買わなければならないのでしょうか?
判例集とは、有斐閣という法律専門の出版社が発行している別冊ジュリスト「判例百選」シリーズを指すのが一般的です。
法令や分野ごとに法律の勉強で重要な判例を100本ほど抽出して掲載しています。
各判例ごとに、事件の概要、判決文(一般的には最高裁判決)、解説という構成になっています。
ではこうした判例集は買わなければならないのでしょうか?
結論から言うと、法学部に入ったばかりの方であれば、買う必要はありません。
まず、判例百選に掲載されている判例は基本的な判例なので、ほとんどの基本書にも概要が書かれています。
概要だけでなく、もっと詳しく知りたいと思ったときに参考資料として判例百選を開くというのが、法学部の授業での一般的な使い方になります。
高校までの歴史の授業での資料集の位置づけです。
その程度の使い方であれば、授業の後で図書館に行って調べればいいだけなので、わざわざ自分で買う必要はないでしょう。
また、最高裁の判決文自体は、戦後のものであれば、大半は最高裁のサイトで閲覧可能です。
なお、戦前の大審院判決は、最高裁のサイトでは見られないため、判例百選か、そこにも載っていなければ、図書館で古い書籍を調べることになります。
判例百選で重要なのは、解説の部分です。
事件の争点は何なのか、それに対して最高裁はどのような立場で判決を出したのか、最高裁判決がその後の事件に与えた影響などがまとめられています。
しかし、この部分は司法試験レベルの内容なので、勉強を始めたばかりの方が読んでも「解読不能」となることが多いかと思います。
この解説を無理して読むよりも、基本書をしっかり読み込んだほうがいいです。また、予備校のテキストの方がもっとわかりやすくまとめられているので、そちらを読んだ方が理解しやすいと思います。
まとめ
法学部の授業では条文の意味を理解するだけでなく、その条文に関係する判例にも目を通す必要があります。
判例を知っていれば、具体的な事件でどのように考えたらいいか判断できるようになります。
基本的な判例は基本書にも掲載されていますが、よりたくさんの判例や最新の判例を知りたい場合は、最新年度版の判例付き六法に目を通しましょう。


